信託契約には、信託の終了に関し、「受益者は、受託者との合意より、本件信託を終了することができる。」旨の条項が存在する場合
信託法164条1項は「委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。」と規定している。
自益信託の場合、委託者と当初受益者は同一人物であり、いつでも信託を終了させることができることになるが、同条3項は別段の定めを許容している。
⇒上記の信託条項は、信託法164条1項とは両立せず、当事者が信託法のデフォルトルールを変更したものであり、信託法164条3項の「別段の定め」に該当する。
したがって、本件信託条項は信託法164条1項に優先し、委託者兼当初受益者は、単独dえ任意の時期に信託を終了させることはできない。
【紛争を起こさせないために実務家が行うべきこと】
①委託者の意思確認
信託契約書の作成に関わる実務家が推定相続人の希望に引っ張られ、委託者の意思確認が不十分になることがある。その結果、委託者がこんなはずではなかったと、信託契約の成立や終了を争うことになる。
②推定相続人に対する説明
特定の推定相続人に対しては信託契約を締結したことを秘密にしておく必要があるケースもあるが、とはいえ、全ての推定相続人に対して事前に信託契約に関して説明しておくことは紛争予防の観点からは有効な手段である。
③信託の終了に関する信託条項の在り方
遺言のルールを参考にすべき。遺言はいつでも撤回できる。
委託者が客観的に望ましくない推定相続人に取り込まれ、もし、信託契約を締結しておかなければ、当該推定相続人によって経済的虐待を受けてしまうような特別な事情がある場合には、撤回を認めないことに理由はある。
④条項の工夫
信託法164条3項の「別段の定め」を意識して条項を作成していないケースがある。「別段の定め」をすると、164条1項に基づく終了の権限を制約することになるから、「別段の定め」に該当してしまうことになるか、意識しながら作成を心掛けるべき。
例えば、「信託法164条1項の規定にもかかわらず」と非両立の関係であることを明示するか、反対に、「信託法164条1項のほかに」として両立する関係であることを明示するか。
(参考文献 信託フォーラム 2019年4月号 85~87ページ)