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【メモ】信託の終了に関する紛争

  • 執筆者の写真: 誠 大石
    誠 大石
  • 3月3日
  • 読了時間: 3分

更新日:4月6日

信託契約に、信託の終了に関し、「受益者は、受託者との合意より、本件信託を終了することができる。」旨の条項が存在する場合の解釈


信託法164条1項は「委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。」と規定している。

自益信託の場合、委託者と当初受益者は同一人物であり、いつでも信託を終了させることができることになるが、同条3項は別段の定めを許容している。


⇒上記の信託条項は、信託法164条1項とは両立せず、当事者が信託法のデフォルトルールを変更したものであり、信託法164条3項の「別段の定め」に該当する。

したがって、本件信託条項は信託法164条1項に優先し、委託者兼当初受益者は、単独で任意の時期に信託を終了させることはできない。


【紛争を起こさせないために実務家が行うべきこと】

①委託者の意思確認

信託契約書の作成に関わる実務家が推定相続人の希望に引っ張られ、委託者の意思確認が不十分になることがある。その結果、委託者がこんなはずではなかったと、信託契約の成立や終了を争うことになる。


②推定相続人に対する説明

特定の推定相続人に対しては信託契約を締結したことを秘密にしておく必要があるケースもあるが、とはいえ、全ての推定相続人に対して事前に信託契約に関して説明しておくことは紛争予防の観点からは有効な手段である。


③信託の終了に関する信託条項の在り方

遺言のルールを参考にすべき。遺言はいつでも撤回できる。

委託者が客観的に望ましくない推定相続人に取り込まれ、もし、信託契約を締結しておかなければ、当該推定相続人によって経済的虐待を受けてしまうような特別な事情がある場合には、撤回を認めないことに理由はある。


④条項の工夫

信託法164条3項の「別段の定め」を意識して条項を作成していないケースがある。「別段の定め」をすると、164条1項に基づく終了の権限を制約することになるから、「別段の定め」に該当してしまうことになるか、意識しながら作成を心掛けるべき。

例えば、「信託法164条1項の規定にもかかわらず」と非両立の関係であることを明示するか、反対に、「信託法164条1項のほかに」として両立する関係であることを明示するか。


(参考文献 信託フォーラム 2019年4月号 85~87ページ)


【関連する事例】

東京地裁判決 平成30年10月23日 金融法務事情2122号85頁


委託者兼受益者(父)と受託者(子)との間で締結された信託契約について、委託者と受託者との合意により信託を終了することができるとの同契約の定めがあるから、信託法164条3項により同条1項の適用は排除され、委託者兼受益者が任意の時期に同信託を終了させることはできず、委託者兼受益者の合意による同信託の終了の主張も認められないとした事例


『しかし、信託法164条3項は、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによるとして、同条1項が任意規定である旨を明らかにしている。

本件信託契約11条は、「受益者は、受託者との合意により、本件信託の内容を変更し、若しくは本件信託を一部解除し、又は本件信託を終了することができる。」(前提事実(4)イ(カ))との規定であるところ、仮に、本件信託の受益者である原告が、任意の時期にこれを終了させることができるのだとすれば、本件信託の受託者である被告との合意によって本件信託を終了することができるとの上記規定は、無意味なものとなるから、本件信託契約11条は、信託法164条3項にいう信託行為における「別段の定め」であって、本件信託において、同法164条1項に優先して適用される規定であるというべきである。』

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